ひより軒・恋愛茶漬け -2ページ目

牡鹿

めったにないことだったが

居間のソファで兄が居眠りしてしまうことがあった。


晩秋の柔かな光が

空気の中の小さなほこりまで

きらきら光らせるような午後


ずっと触れてみたいと思っていた兄のうなじに

わたしはそっと指先で触れた。


汗ばんだ産毛は短く

動物の毛のように揃っている。


わたしは心の奥で牡鹿を思った。


牡鹿は若く

まっすぐに立ち

遠いまなざしを持っている。


わたしは目を閉じ

兄の夢の中に

その鹿を追いかけていく。


吸って

吐いて


くりかえす寝息のゆるいリズムに

呼吸を合わせようと夢中になれば

まどろみは静かにわたしを包んだ。


湖と間違うほどの池

水草の揺れる水面


そのほとりを

わたしたちは並んで歩いている。


話しているのはわたし一人だ。

兄は無口な人だった。


子供らしくふざけてお互いの体に

触れ合ったこともない。


鹿の背にそっと置いた手のひらが

人ごみではぐれそうなときだけ繋いだ

兄の手の暖かさを思い出させた。


兄の声が聞きたかった。


言葉が聞きたかった。


ただ、わたしの名前でもいい。


風が吹き

枯葉が舞って

前触れのようにさざ波がたった。


しかし

わたしの願いはむなしく

その静かな景色の中で

鹿は哀しい口笛を吹き始めた。






ブログを休んでいる間に

小説の講座で

井上荒野さんに小説を読んでいただいたりしました。


もちろん

ダメだしもたくさんされたけど

「頑張って書いてね」と握手をしていただいたりして嬉しかった。


白石一文さんや

大沢在昌さんにお話を聞いたり


贅沢なこと……ですよね。


本当に書きたいと思う日々です。


小説家になる、ということと

小説を書く、ということが

自分の中でイコールになっていないから


心構えが全然ダメ!なんだと思うけど

今は、とにかく小説が書きたい。


苦しんで書いていきたい、です。


発車べル

雨上がりの街を駅へ向かった。


ゴールテープを切るときみたいに

前のめりになって

冷たい空気を顔で分けて駆けた。


向かい風。

足元に無数の水たまり。


はねを上げながら

自分のスピードに酔えば

おろしたてのストッキングが

どんなに汚れても気にもならない。


湿気をすった髪が

醜く広がる。

お気に入りのヘッドフォンで

頭を押さえる。


涙をすった想いが

頭からあふれても

厚みのある音で

鼓膜を麻痺させた。


  ごめんね


このスピードのわたしを

追いかけながら


  悪気はなかった


謝ってばかりいるあなたを

改札に残して

電車の中に飛びこんだ。


はやく。


はやく。


電車がホームを離れても

あなたを見ない。


雲が切れて

光が差して


見慣れた電車の窓を

明るく照らしたから

急にこわくなって


あなたが大好きだった

虹を見ないように

目を閉じる。


つり革に

ぶらさがって

旋律をなぞり

ただ前後に頭をゆらす。


誰かにうなずくみたいに。






ちょっとそれどころじゃない事情などありまして

ブログをお休みしていましたが

又、少しずつ書きはじめたいとおもいます。


元気です。


昨日

「ティファニーで朝食を」のDVDを観ました。

意外と有名なものを観ていないのです。

泣いてしまいました。




シオル

静かな佇まいに

のばした背筋に

よく通る声に


見えるものを感じるのではなくて

感じるものを見る。


この国の

遠い親から

受け継いだ心で


堅いオモテのウラの

柔らかな肌を思い


抑えられた鼓動が作る

繊細な息遣いを嗅いで


待ち人を待つ

彼らのなかに


立ち尽くす

自らを


読め。







地震で被害に遭われた方々


多くの悲しみや苦しさをしまいこんで

前を向いている姿勢にうたれます。


微力ですが

ずっと

応援していきたいです。

土。かかと。

高く飛ぶために

体を沈めて

息をすう。


届きたい何かが

見上げるその場所にあって。


助走をつけることを

知らないほど

幼いかかとが


くやしまぎれみたいに

何度も

地面を叩く。


 ー ひとりだったから。


見守ってくれる

誰かの視線を思った。


無意味な挑戦を

意味あるものにするほほえみ

存在しない報酬のかわりに

得られる何か


息があがり

汗ばみ

滑稽だろうその姿は

それでも少しも


 ー かわいそうじゃない、から。


闘っている。


そんな

がらんとした場所には

時々

誰もみたことがない光がさす。




先月、小説講座で

誉田哲也さんにお会いしました。


わたしは「ジウ」が好きなんですが

小説は結構ハードだし

どんな方かな、と思っていたら

若くて優しい感じの方でした。意外…。


格闘技が好きだとおっしゃっていたので

なんとなくわたしなりの闘いっぽいイメージで

書いてみました。


最近は小説も書きあぐねていて

(きっと書きたいことが欲張りすぎ)

ブログの更新がなかなかできず、すみません。


それでも

ブログに来てくださる方々、本当にありがとうございます。



トーキョーの雪

雪の日の玄関は

きん、と冷たく湿っている。


覚悟、みたいな

勢いをつけて

しまっておいた長靴をだした。


腕を大きくひろげ

バランスをとって

ひんやりとした靴の中に

両脚をそっといれてみると


なんだか

あの人の抱擁みたいに

ゆるすぎて

ずいぶん心もとない。


ドアの外は雪。


冷え切ったノブを回し

目を細めながら

まぶしい世界に踏み出した。


降ってくる雪が見たいから

安い透明のビニール傘をさす。


あしあと

あしあと

あしあと


いったりきたり

ぐるぐるぐるぐる

楽しいけれど

家の前から離れられない。


だって


この赤い長靴は

あの人がどこからか

買ってきたものだ。


こんな日は

想いがよみがえって

あの人がどこからか

戻ってくるような気がする。


あたたかい飲み物を

ただ一緒に飲むために。




久しぶりに東京に雪が降りました。


チョコレートの味見

ゆっくりと

あたためて溶かした

甘い液状の

チョコレートに


生クリームと

少しだけラム酒を足すと

もう

冷えてかたまるのなんか待てない。


やっぱり行儀なんか二の次。


ベッドの上のあなたを

すぐここに呼んで


いつもの

あなたの

繊細な中指で

チョコレートの味をたしかめて欲しい。


道具なんかいらない。

遠慮もなくていい。


透明なボウルの中で

あなたの先端に

どろりとまとわりつく

カカオ色のそれを


中指だけか

人差し指と中指の2本で

そっとすくい


唇の間から暗い口腔内に入れて

柔らかな舌先で

ぬぐって欲しい。


あなたは目を閉じて

わたしは目を開けて


それからそっと

お互いの指を交換して

与え合う。


単純な答えのかわりに。







今月、小説講座で角田光代さんに

読んでいただきました。

嬉しかった。


角田さんは優しい人です。

それにとても楽しい人です。


小説を書くことにはまだ慣れないけれど

もっと書いていきたいです。


誰かの心を動かすようなものを。




バスの揺れ方

だってそんなに急に

勉強が好きになるわけがない。

図書館通いの理由は

18時45分のバスに乗るためだ。


程よくお客を乗せたいつものバスが

冬の暗いバス停に滑り込んでくる。


ばたばた鳴る扉。

暖められた空気。


定期をみせて

どきどきしながら車内を見ると

あ、やっぱりいつもの後ろから2番目の席に

あの人がいる。


あの人は本から顔をあげない。

こんなコドモなんてきっと眼中にない。

もう1ヶ月も隣に座るわたしを

ちらっと横目で見ることすらしない。


ダカラ カレガ スキダ。


月が出ている。

わたしたちを照らす。


月を見るふりをして

彼の横顔を盗み見る。

遠い世界にいる人の深い呼吸で

彼はページをゆっくりとめくっている。


大人の人の匂い。

スーツの袖口からのぞく手首。


密着した

体の片側が暖かくて

ついまぶたが重くなっていく。


3個目のバス停前のカーブ。

5個目のバス停からの坂道。


バスの揺れ方と違う揺れが

いつも降りる8個目のバス停で

わたしを起こす。


大きな手のひらは

肩に置かれ

覗き込むようなまなざしに驚いて


席を立ちころがるように降りるわたしは

みっともないくらい滑稽なのだろう。


ワラワレテ モ イイノ。


バスの車窓に

はじめてみる彼の笑顔が

まだ夢の中みたいな

スピードで遠ざかっていく。





いつもブログの記事を書くときは

同じような作品がないか

少し調べます。


詩って言葉が少ないから

誰かの何かとかぶってしまっても

不思議ではないので。


今回バスの場面を書こうと思ったら

スピッツの歌がHITしました。


全然内容は違うけれど

出だしの「バスの揺れ方」を

タイトルにしてみました。


エゴイスト

何が欲しいのかもわからずに

君を欲しがっていた。


ただ

そばにいて欲しい、と。


悲しい顔をさせているのは

間違いなく僕なのに

ずっと笑顔で話しかけていた。


少しずつ

後ずさる君を

追い詰めるみたいに。


叩かれるのと同じように腫れて

跡になる言葉。


そんな皮肉な言葉でも

良かった。


音楽を流してと言う

君を無視して

静かな部屋に


ただむき出しの

かすれた声が

重なっている。





気がつくと

誰かを喜ばせることに

夢中になってしまいます。


謹賀新年2011


ひより軒・恋愛茶漬け-新年2011



今年もよろしくお願いします。     ひより。

クリスマスデコレーション


ひより軒・恋愛茶漬け-snowman2010


ちかちかと

光り続けるのは


願いをかなえる星のように

あなたを照らしたいから。


ありがとうなんて

言わないで。


急ぐあなたの足を止めて

あの人への嫉妬をごまかして


まだわたしの声が

ほんの少し

届くことを喜んでいる。


飾られる。

褒められる。


たとえ他の誰と同じに見えても


捨てられる。


季節のせいに

できるぶんだけ

あなたの負担には

ならないから


今夜は

ただ無邪気に

はしゃぐことを許してください。


微笑んで。

笑わないで。




クリスマスは

仕事が忙しくて大変です。