トーキョーの雪 | ひより軒・恋愛茶漬け

トーキョーの雪

雪の日の玄関は

きん、と冷たく湿っている。


覚悟、みたいな

勢いをつけて

しまっておいた長靴をだした。


腕を大きくひろげ

バランスをとって

ひんやりとした靴の中に

両脚をそっといれてみると


なんだか

あの人の抱擁みたいに

ゆるすぎて

ずいぶん心もとない。


ドアの外は雪。


冷え切ったノブを回し

目を細めながら

まぶしい世界に踏み出した。


降ってくる雪が見たいから

安い透明のビニール傘をさす。


あしあと

あしあと

あしあと


いったりきたり

ぐるぐるぐるぐる

楽しいけれど

家の前から離れられない。


だって


この赤い長靴は

あの人がどこからか

買ってきたものだ。


こんな日は

想いがよみがえって

あの人がどこからか

戻ってくるような気がする。


あたたかい飲み物を

ただ一緒に飲むために。




久しぶりに東京に雪が降りました。