ひより軒・恋愛茶漬け -43ページ目

バースデープレゼント

「バースデープレゼント」

たんじょうび。
にちようび。
タカシが
連れてってくれたのは
海の見える公園だった。

あ、いままでのオトコと
違うって、私、思った。

今までのオトコたちは
レストランを予約して
私から聞き出したブランドの
香水やら、指輪やら、くれて
ホテルの部屋までおさえて

おやじじゃないんだから
むりするなって感じ。

気持ちは嬉しいけど
なんか気取りすぎはツライ。
食事しながらオトコがくだらないギャグ言って
私がおこった振りして
テーブルの上に手をのばして
オトコの柔らかいあごひげを引っ張ると
舌をビロンって出して、
思い切り笑い転げてって
そんな遊びもできないのが、ツライ。

なんだか緊張して向かい合ってる
まだコムスメの私と
アオニサイ。
たんじょうび、なのに。

でもタカシはちがう。
今までも何回も来てる公園だ。
海の見えるその公園は
原っぱも砂浜も観覧車もある。

ひろい原っぱに寝転がって
草の匂いをかぎながら抱き合ったり
靴を脱いではだしになって
砂浜でかけっこして転んだり
砂山を作って棒倒しをやって
負けた方が罰ゲームに
似ていない物まねをやりあったり

いままで2人でやった
面白かったことを
もう1度ぜんぶやった。

たんじょうびスペシャルとか言って。

楽しいから私たちにまわりは見えない
まわりからは
きっとバカみたいに見えると思う
バカみたいに幸せに見えると思う
きっと。

笑いすぎ。
たんじょうび、だけど。

太陽が傾いて
原っぱも海も観覧車も
薄ムラサキにそまるころ

タカシは私の手を引いて、私をベンチに座らせて
はだしの足の砂を落としてくれる
その細い指で。ていねいに。

そして靴をはかせてくれる。
たんじょうびスペシャルとか言って。

お、そうだ、プレゼント、
タカシも急いで靴を履く。

原っぱの奥に進むと、そこはコスモス畑になっていた。
1面オレンジのキバナコスモスが海風に揺れていた。
ご自由にどうぞ、って
きれいな字の立て札がたっている。

タダじゃん、って、笑うタカシ。
プライスレス?って、笑う私。
バカだ。

手をつないで
コスモス畑にゆっくりと入っていく。
胸まで届くオレンジの海につかる。

思わず1本つもうとする私をさえぎって
タカシは小さなナイフで
きれいなオレンジ色の花束を
手際よく作っていく。

薄ムラサキのやわらかい光のなかで
丈の高いコスモスに囲まれて
真剣な顔で花を選んでいるタカシ、の横顔。
おくれずに、ついていく私。

そのとき

あ、この光景、
きっと一生忘れないよ、って。
今、聞こえた。私の声?
きっと一生忘れない日になるよ、って。

タカシ。

タカシのスペシャルプレゼント、
もう、ちゃんと私に届いたよ。

オヤスミ・メール

「オヤスミ・メール」

トモ君、今日は楽しかった。

トモ君の大好きなサッカー、
応援に行ってみてよかった。
あまりサッカーのことを
よく知らないけれど、
トモ君が
「今日はハズせない」って言うから
なんか、いつもと違うトモ君が見られるのかなって
期待してついて行きました。

応援の仕方も細かいルールも選手の名前も
よくわからなかったけれど
味方のゴールが決まるたびに
トモ君が立ち上がって、ヨロコビのあまりに
私に抱きついてくれるのがうれしくて、うれしくて。
気がついたら、私も立ち上がったまま大声で応援してた。

なんか体がアツカッタ。私には新鮮な体験でした。

試合に勝って、トモ君おおよろこびで、
オレ、今日何でもおごっちゃうから、
オマエなにがいい、なんでもいいから言って、って
でも結局トモ君の好きな焼肉屋さんに決まったんだよね。
おかしいよね。

焼肉屋さんに行く途中、公園を通り抜けたでしょ。
急にあたりが静かになって
トモ君が
「いつもオレの好きなことにつき合わせてばっかりで
ごめん。無理してない?」って聞いた時
あんまり真剣な声だったから、おどろいて
「うん。」と短くしか答えられなかったけど、
私は全然、無理なんかしてないよ。

私ね。今日、発見したことがあるんだ。

私って背が低い方だから
いつもオトコの人と歩くと小走りになったりするのね。
特にデートだと無理してかかとの高い靴をはくから、
くつずれで泣きそうになったりするの。

でも、トモ君と会う時は、1回もそんなことないんだよ。
それを今日、トモ君と歩いている時に思い出したの。
何でかなって考えながら歩いてて初めて、
トモ君が私に、私の歩くスピードにあわせてくれているのが
わかったんだ。

ばかだよね。今まで気がつかないなんて。
背だってすごく高いし、
いつもあれだけ颯爽と歩いてるトモ君なのに
どんな道でもどんな交差点でも
絶対に私をおいていかない。
ちゃんとぴたっと並んで歩いてくれる。
それも私に全然、気づかせないで。

ごめんなさい。
あやまるのは私の方です。
こんなに長い間、トモ君の優しさに気づかないなんて。

これからも、トモ君と並んで歩きたい。
行き先は、しかたないから、
トモ君の好きなところを選ばせてあげるね。

じゃ、いい夢を見ます。おやすみなさい。

―おわり―


  10月が終わりました。
  初めてのブログで、
  毎日更新できるのかなって思ってたけど
  とりあえず達成!うれしいです。

  初めてブログを始めるときは
  誰も読んでくれないんじゃないかって
  本当に不安でした。
  他のグーやエキサイトやココログなんかに行くと
  こんなにたくさんのブログの中で
  だれが私に気づいてくれるのかって…。

  偶然できたばかりの
  アメブロを見つけてよかった。
  ランキングもモチベーションを高めるのに
  ホントに役立ちました。
  なにしろ、私は飽きっぽいんです。

  来月も更新、がんばろうと思います。
  読んでくださっている方に本当に感謝しています。
  たまには(いつもはツライ…けど)
  辛口のコメントもお寄せください。dokidoki。
        
                   ひより





ぬくもり3

  「ぬくもり3」

今年の10月はよく雨が降った。
落ち葉はぬれて
音も立てずにふみつけられた。

「…いいよ、待ってるから。
…うん。…気にしなくていいから。」
いつものように泣き声で、
チカから電話がかかったその日も
3日続きの雨の日だった。

電話をきると、参考書をひらいたままで、
僕はチカをあたためるために、浴槽に熱いお湯をためにいく。
浴室の開けっ放しの小さな窓をしめると
はげしい雨の音と匂いが、
僕のせまい静かな部屋から追い出される。

トントンとドアがノックされ僕がドアを開くと
冷え切ったチカが涙で化粧を崩しながら立っていた。
何も聞かずに浴槽でチカをあたためてから
また少し痩せたチカの湯上りの体を僕は優しく抱いた。

僕たちの会話は少なかったが
そこには癒されるものと癒すものの静かな関係がある、
そんなふうに雨のオトを聞きながら思っていた。
その日のチカはいつもより饒舌で
話題は大学時代のチカの告白に移っていった。

「あの時ダメって言われることはわかってたんだ。
先輩はいつも表情がやわらかくて、
けして声を荒げたりしなけど、
私はどこかにずっと冷たさを感じてた。
この人の気持ちはどういう時に動くのかなって。
恋人とケンカしたり振り回されたりする姿が
全然想像できなかった。
静物、静かな物のセイブツだよ、
セイブツみたいにそこにある心を、
崩して壊して…みたかったの。
それが先輩を好きになった始まりだったんだと思う。」

「そうかなあ。感情だって出したことあったと思うけど。」
「じゃあ、感情的に恋人とケンカしたりした?」
「う~ん。それは記憶にない。」
「そうでしょ。先輩は…自分以外は愛せません、ごめん、
僕は僕で完結って感じがするんだよ。」

チカも僕も裸で畳にならんで横たわり
毛布にくるまって
天井やら壁やらを見ながら話していた。

「冷たいって、チカにこういう状況で言われたくないなぁ。」
「先輩には感謝してるけど、先輩に抱かれるたびに思うよ。
やっぱりセイブツだって。完結だって。」
「僕が抱くことで、少しでもチカを癒してあげられると…。」
そのときチカは、ぼくのことばをさえぎるようにして言った。
「私は抱かれることを、ただ…先輩へのごほうび、って思ってる。」

強い口調に起き上がってチカをみると
横たわったままで、じっと僕を見ていた。
「ごほうび」と強く言い切ったチカの言葉に、
なぜか頭に血が逆流する。

「ごほうび」ということばの侮蔑的なヒビキ。
どんどん自分の顔が紅潮するのがわかった。
そして、その顔をチカに見られている、ということが
さらに僕をあわてさせた。

思わず
チカの白い頬を平手で強く叩いていた。

ぱしっ
乾いたオト。ヒビク。

まだ叩き足りないような気がして
そんな気のする自分にもおどろいて
チカに何か言われるのがこわくて
窓の外の、重い灰色の空に目を向けた。
僕のふるえる指と強くかんだ唇を
どうしても見られたくなくて。

チカは何も言わなかった。
黙って服を着ると
ゆっくりと玄関のドアを閉めて出て行った。

ガタン。

チカの気配だけを追っていた僕は
まだ激しい鼓動を抑えられずにいた。
望み通り、チカは僕の何かを崩して壊したのかもしれない。

とにかくチカを追わないと。
自分の声。

すばやく服を着て、玄関へ走ると
コンクリートのたたきを見て僕の足は止まった。

赤いスニーカーの隣に
傘を使って書かれた
水滴の文字。

―ごめん。

それがチカのいうべきことばなのか
僕のいうべきことばなのか
靴も履かずに考えていると
ドアについた郵便受けに
早めの夕刊が
コトン とおちた。

          -おわりー

  長いお話になってしまいました。
  読者の方、ありがとうございます。
  これ書いた後、
  飲み会で今朝は4時に帰ってきました。
  となりに合コン風の集団がいて
  恋愛ネタを探すようについつい
  観察してしまう私。ふふふ。
  飲みに言って変な視線を感じたら
  それは、私かもしれませんよ。




ぬくもり2

  「ぬくもり2」

神田の古書街でひろったチカは
あまりにもずぶぬれで、
喫茶店に入ることすら
できなかった。
チカに声をかけたことを、
僕はとうに後悔していた。
かといってこのまま
雨の中に放り出すわけにもいかず、
しかたなく僕は自分の借りていた部屋に
歩いてチカをつれて帰った。

そのころ僕が借りていた部屋は水道橋にあって
東京ドームから20分ほどのアパートだった。
大学に入ると同時に借りたその部屋は
6畳一間に小さな台所と
ユニットのバストイレがついていた。

あれは
司法試験の択一試験が終わったばかりだったから
6月の初め頃だったと思う。
現役4年生の時から司法試験を受けはじめたが
2回も落ちて3度目の挑戦だった。

ずっと付きあっていた年上の彼女とも
去年、論文試験に落ちた時に別れた。
別れたいといわなくても
連絡を取らなくなった僕から、そっと彼女は離れて行った。

毎日、僕は司法試験専門の学校へ通い、
後は起きている時間のほとんどを
部屋での勉強に使っていた。
食事だけは気分転換のために外で食べた。

モノが少ないから片付いているように見える
6畳の部屋の中でチカは放心状態だった。
僕はバスタオルとスェットの上下を渡すと
「風邪ひくから、とにかくオフロに入って。」とだけ言って
傘をさし近くのコンビニで時間をつぶした。
それほど読みたくもない雑誌のページをめくりながら
心のどこかで、
メンドーに巻き込まれるのは嫌だな、と思った。

30分ほどすぎて部屋に戻ると
チカは大きすぎる僕のスェットを着て笑いながら頭を下げた。
「先輩。ごめんなさい。」と。

雨の音はまだ激しく続いていた。

6畳の狭い部屋で
向き合った壁にお互いがもたれかかり、
チカの話がはじまった。

チカは大学を卒業し、デパートで働いていた。
職場の仲間と飲みに行った居酒屋で
今のカレと出会ったらしい。
私のヒトメボレなの、とチカは言う。

そのカレは美容師で
ヘアメイクアーティストになりたいという夢があった。
ヒトメボレのカレにチカは積極的だったのだろう。
不規則なデパートの休みを
できるだけ美容室の休みにあわせて会い
彼女として指輪をもらったばかりだといった。

今日は三省堂でチカの好きな作家のサイン会がある。
カレを誘って一緒にサイン会に行くと
偶然、カレの奥さんと会ってしまったそうだ。
当然、チカはカレの結婚を全く知らず
当然、サイン会場の一角は修羅場となった。

結局カレは、走り去った奥さんを
追いかけていってしまったという。
チカひとりをそこに置き去りにして。
雨の中、傘のないチカは
ぬれたまま泣きながら道を歩いていて
僕と再会したのだった。

「地獄に仏。じゃなくて修羅場に先輩。」
チカの笑顔。卒業以来だった。
壁にもたれたまま僕はつられるように笑顔を返す。

チカは笑顔のまま、僕のほうへ。
壁にもたれた僕の両手をチカは引き寄せて
膝立ちにさせると、そっと冷たい唇を僕の唇に押し当てた。
お気に入りのシャンプーの匂いが僕をくすぐり、
僕は包むように優しくチカを抱いた。

***************

それから、時々チカは僕の部屋にくるようになった。

不倫。
チカはカレとの関係を終わりにできなかった。
「傷つくの。でも…愛だと思う。」

僕はチカに愛情を求めないからいいと言う。
チカは傷ついた時だけ僕の部屋にきて
僕に抱かれると元気になって帰っていった。
大きく手を振って。

僕の部屋はチカの避難所になった。
そして僕にとってのチカは
単調な生活の小さな刺激でしかなかった。
その年僕は論文試験に受かった。
あとは口述試験だけ。
季節の移り変わりを味わう暇もなかったが
部屋の窓から色づいた葉が、秋風に揺れているのが見えた。


<更新が間に合わないので一旦つづきます。>



ぬくもり

  「ぬくもり」

電話からこぼれてくる彼女の声は、
いつもカスレテいる。
はんぶん涙声のときもある。
「…いいよ、待ってるから。
…うん。…気にしなくていいから。」

電話をきると、参考書をひらいたままで、
僕はチカをあたためるために、
浴槽に熱いお湯をためにいく。
浴室の開けっ放しの小さな窓をしめて
はげしい雨の音と匂いを、
そっと部屋からしめだしておく。

チカは大学の新聞部の1年後輩だった。
明るくて見た目もなかなか可愛いかったが、
まじめすぎる部分があり、
議論好きの新聞部のなかで1番の正論好きだった。
オトコたちの間では絶対にバージンだと噂されていた。

僕は高校時代に何人かのオンナノコと付き合い
そのたびに妊娠騒ぎにヒヤッとした。
オンナノコに「妊娠したかも」といわれると声を失った。
どんなに好きなオンナノコでも
自分の思いえがく大切な将来と引き換えにすることは
考えられない。

動揺して
「僕たちには育てられないよ…。」と言うのがやっとだった。
嫌になるくらい自己中心的だった。

オンナノコたちの妊娠は、
全部、勘違いか僕の気持ちをためすためもので、
僕はツイてる…と思った自分の傲慢さを
今は恥ずかしく思い出す。

妊娠ギワクが晴れると僕の恋はもう冷めていて
泣いたりわめいたりするオンナノコたちを
メンドーだと思いながら、あっさりと捨てた。

チカは1年、ぼくは2年の冬、
大学の新聞部スキー合宿で、
夜の宴会の途中、チカに呼び出されて告白された。
民宿の1階と2階をつなぐ階段の踊り場は
ひんやりとした空気が酔った体にここちよく
雪明りでぼんやりと明るかった。

「私、先輩のことが好きなんです…。」

「…ごめん。…付き合っているヒトがいるから…。」

Sさんという女性は新聞部の先輩で、外資系の銀行に勤めていた。
僕より5つも年上で、いつも目を細めて微笑みながら僕を見る。
仕事が忙しいから僕を毎日拘束したりしない。
「出世払いね。」といって、食事やデート代も出してくれる。
安全に愛し合う方法も彼女はたくさん知っていた。
そして目を細めながらも僕を大人扱いしてくれた。嬉しかった。

オンナノコはメンドーだと思っていた僕に
オンナのSさんはとても居心地の良い恋人だったのだ。

「私じゃダメですか?」と聞くチカは
頬を上気させて、いつもよりずっと綺麗に見えた。
僕は「ダメ。」と一言だけいうと、きびすを返して
宴会で盛り上がっている2階へと階段をかけあがった。

***************

卒業後、チカと再会したのは
神田の古本屋を出たところだった。
かなりはげしい雨が降っていたのに傘も差さず、
ずぶぬれのチカが目の前を通りすぎる。

傘を差しかけながら
「チカ。」と声をかけると驚いたことにチカは泣いていた。
ぎょっとした僕は、
差し出した傘を引っ込めることができず
チカは泣き顔をさらしたまま
しばらくの間、傘の中で、2人はただ見つめあっていた。
              
  ―つづく―
 
  ねむくてもう書けません。
   つづきます。

かきおき

 「かきおき」

アメブロに検索機能がつきました。
なんか楽しいことがやってみたくなりました。

自分のブログの中からコトバを選びます。
青空 で検索してみると…出てきません。

私のブログにはカギカッコ「 」が
ついているからでしょうか?
たとえば「青空」のように。

編集画面でカギカッコをはずすと…青空・検索HIT!
にやり。

知らない人たちの
たくさんのブログが並んでいるのを見ると
たくさんの窓が開いているような
不思議な気持ちになります。

これから
今夜は
たくさんの青空を見にでかけます。

るすにしてすみません。
さがさないでください。

「カゾクの肖像」

「カゾクの肖像」

小学校3年生のとき、
図工の課題は「家族の絵」。
その時、私が迷わずに描いたのは、
タカスギ君の顔でした。

タカスギ君は、
話が上手でクラスの人気者で
時々ふざけすぎて先生に立たされて
でも足がもうめちゃくちゃ速くて
髪の毛はなんかサラサラで

はっきりいってモテモテ。

席替えのとき、
オンナノコたちの顔には全部、
「タカスギ君の隣になりたい」ってかいてありました。
先生の作ったくじを引くときも
みんなが目を閉じて「タカスギ~」って念じているのが
ビンビンと伝わってくるのです。

やっぱり、あれかな。
きのう公園で迷子になってたヨウジ、
家をさがして送ってあげた
ゼンコーが良かったのかもしれません。

3学期、とうとう私はタカスギ君の隣の席になりました。

隣でみるタカスギ君は、やっぱりステキで面白くて
いつかタカスギ君のお嫁さんになりたいと、
いや、これはウンメイよと、勝手なことを夢みていました。

そんなある日、図工の時間にでた課題は「家族の絵」。
ほとんどの生徒がお父さんやお母さんを描いているなか
絵が得意だった私の描いた絵は、明らかにタカスギ君でした。

たぶん他のオンナノコと違う方法で、強烈にアピールしなければ
タカスギ君は自分のことを
特別な目で見てくれないと信じこんでいたのでしょう。

「なんかコジマの絵は、タカスギに似てるな~。」と
先生に笑いながらシテキされたときには
「ちがいますよ~。おとうとですよ~。」って
ごまかしたけど、5才のおとうとの顔というには
かなり無理がありました。今思えば。

あのころから、今日の日がくることを
私は知っていたんでしょうか。
先ほど、皆様に見守られ、
憧れだったタカスギ君と結婚式を挙げることができました。

今日からタカスギ君は本当に私の家族になりました。
これからは2人で力をあわせ
幸せな「家族の絵」を描いていきたいと思います。
ご列席の皆様、ありがとうございました。

―「続きまして、新郎新婦からご両親へ、花束贈呈です。」
  司会の女性の声が、大きな拍手にかぶさるように
  披露宴会場にひびきました。

太陽と毒ぐも・角田光代

  幸せというオリに囚われた
     主婦にとって  
  読書は違う自分を生きる     
     どこでもドア  
  恋愛を中心に書いていきたいと思います。


 「太陽と毒ぐも 角田光代」マガジンハウス

先日、おしゃれをした高校生のオンナノコが
自転車にのりながら、路上に唾を吐くのをみました。

ジェンダーフリーの時代ですよね。
女らしさとか流行らないのかもしれません。
でも…そこまでやってもいいの?
そのコは、メイクとかネイルとか
「オンナノコらしく」していたから、
よけいに驚いてしまったのです。

また、かなり前のことですが、
TVで「汚ギャル」と呼ばれるシュゾクが
キャーキャーいいながら
私、何日お風呂に入っていない、とか
このコーラいつ買ったんだっけ、とか
腐ったものが同居している部屋を
平気で見せていた時も絶句しました。

こんなオンナノコと付きあう、オトコノコはいるのか?
それが最大の謎でした。

角田光代『太陽と毒ぐも』には11編の短編小説が入っています。
書店ではあまり手に入らないマガジンハウスの雑誌「ウフ。」に
掲載されていたものがほとんど(10編)です。

その中で1番最初に入っている『サバイバル』は
汚ギャル「キタハラスマコ」とつきあう、
キョウちゃんのお話。

主人公のキョウちゃんは、
デートに行く時、いつもドキドキしています。
「キタハラスマコ」が今日は風呂に入って何日目か、
それが心配で、祈るような気持ちで
待ちあわせ場所に向かうのです。

それでも彼女と会うと話がはずんで楽しい。
いつか一緒に暮らすのもいいなと思えてしまう。
そんな2人の恋は…。

この本にでてくるカップルは
どれも変わったカップルばかりです。
変なものに、こだわっていたり
変なことに、とりつかれていたり

作者のあとがきにも、こうあります。
「書きながら、また読みながら、
ばっかじゃねえのこいつら、と私は思ったが
けれどページのそこここに、些細なことで
恋を失ったり愛をだだんと踏みつけた私自身の
ばっかみたいな影がはりついている」

だれでも多かれ少なかれ
これだけは許せない、これだけは許してよ
という性癖があるのかもしれませんね。

この短編集の中で特に私が面白いと思ったのは
『サバイバル』の他に
何でも人に話してしまう彼女と
何でも気持ちを短歌にしてまぎらす彼の『57577』
初めての海外旅行で2人の関係に亀裂をみせる『旅路』です。
『旅路』のラストは予想外で
ホントに面白かった、オススメです。

ヒロシの帽子

「ヒロシの帽子」

あれだ。まちがいない。

高校2年の冬に、私がせっせと編み上げたニットの帽子。
同級生のヒロシのために。

くすんだダークブルーにグレーと赤のライン。
ちょうど耳が隠れるように
あまり子供っぽくならないように
編んだりほどいたり
編んだり編んだり

忘れるはずがない。

明治記念公園の広いフリーマーケット会場で
ライトブルーのビニールシートの上、
ゲーセン仕様のミッキーマウスと
たたんだバナナリパブリックのシャツとの間に
はさまれて窮屈そうに並んでいる。


ヒロシは、はじめて付きあった彼だった。
初めての気持ち
初めてのキス

「初めての…オトコ」

と、つぶやいてキャー、イヤーと
モー、私ったら、モーと
まだキスの後で、顔もあげられないくせに
甘美なニクタイの愛の世界に
貧弱な胸をふくらませていたジョシコーセイ。

ヒロシには言わなかったけど。

たぶん「初めて」にとりつかれていたんだと思う。
学校さぼってディズニーデートとか
公園ピクニック・ウィズ・手作り弁当とか
手編みのちょっとしたプレゼントとか

彼ができたらやってみたいことが
ずっと憧れていたことができることが
嬉しくて、ただモー嬉しくて

―なんでもない日にサプライズ・プレゼントを。
ティーン雑誌の記事に
おお、これだ、これと思った私は
占いのラッキーデーとカレンダーを見比べて
なんでもない日を勝手に決めた。

ヒロシ、待ってて。

せっせと編んだニットの帽子は満足のいく出来栄え。
いつか彼と結婚して家で編物教室を開いて…って
夢はドンドン飛躍していくジョシコーセイ。

なんでもない日は土曜日。一緒に映画にいく約束だった。
2人とも大好きなホラー映画。楽しい。
気取らないパスタのお店でおしゃべり。楽しい。
手をつないで夜景のきれいな公園へ。楽しい。楽しい。

公園の高台のテラスから
遠くのビル群が輝いているのが見える。
私は何とか、どうでもいいんだけどって感じを作って
茶色のどこにでもある紙袋に
無造作に入れた帽子をヒロシに渡す。

さりげなく、さりげなく
ヒロシの反応なんて気にならないふりがしたいんだけど

やっぱり横目で見てしまう。
横目で笑顔を確認して、すばやくビルの灯りに目を向ける。

「ナオ。ありがとう。」
私の名前をそんなに優しく呼べるのはヒロシだけ。
背中から体を抱きしめられると、
あたまの上からヒロシの声がふってくる。

「なんか、オレなきそうかも。」

なくな。なくなんていうな。
なくなんてきいてなきそうになる、私。
夜景の輪郭が、ジンワリとにじんで…。


まちがえるはずがない。

あのヒロシの帽子が、12年のサイゲツを越えて
今、目の前でブルーのシートに並んでいる。
不思議な気持ちに包まれながら
私はその帽子から目がはなせない。

奥のほうに置かれたディレクターズチェアから立ち上がって
ブルーシート店の店主が
「その帽子いいでしょう?」と気軽に声をかけてくる。

聞き覚えのある優しい声。
店主の顔を確かめるために
私は顔を上げることができない。

「いくらなの?まけてくれる?」と
笑いながら聞く勇気を持てないまま
私はずっと、
ヒロシの帽子の前で立ちつくしていた。



「結婚式のワスレモノ」

   結婚式で
   まず思い出すのは
   あの…。

   
  「結婚式のワスレモノ」

主人と私が結婚式を挙げたのは、秋。
トウキョウタワーのよく見える
ホテルでのことでした。

ケーキカット。上司や友人の祝辞。お色直しと花束贈呈。
ごく普通の結婚式と披露宴は
ごく普通に幸せにとり行われました。

私たちが選んだそのホテルでは、披露宴をしたカップルに
当日のスィートルーム宿泊サービスがありました。
そこで私たちは2次会の代わりに
友人たちをスィートルームによんで思いきりバカ騒ぎをし、
本当に楽しい時を過ごしたのです。

主人も私も飲んで飲んで飲んで飲みすぎて
結婚式の疲れも重なり朝まで熟睡…。
翌日はハネムーンの飛行機に遅れそうになり
大あわてで成田空港へ向かったのでした。

そうして10日間、カリブの島へのハネムーンが終わると
借りたばかりの新居へ帰宅。
ほっとしてリビングに行くと
留守番電話のランプが点灯しています。

そこには、友人の冷やかし電話のほかに
あのホテルから伝言が入っていました。

「○○様。先日は当ホテルを
ご利用いただきありがとうございました。
今回、お電話を差し上げたのは、
ご利用いただいたスィートルームにお忘れ物がございまして
こちらでお預かりしております。
当ホテルにお立ち寄りの際には、
お手数ですがフロントまでお声をおかけください。」

ワスレモノの心当たりのない私たち2人は
同時に首をかしげました。

次の週末、
披露宴担当者との最終的な清算手続きがあったので
私たちはそのホテルをたずねました。

ついでにフロントへ行ったのは、私です。
留守番電話の内容を告げると
「こちらでございます。」と
ホテル名の入った小さな手提げの紙袋を渡されました。
フロントの人のなんともいえない無表情…。

こころあたりのない私は
「なんだろう?」と心の中でつぶやきながら
その場で紙袋をのぞきました。

紙袋の中には小さな白いビニール袋。
その白いビニール袋を取り出します。
その中には小さな半透明の口の閉まったビニール袋。

何?

その半透明のビニール袋を取り出そうとした時
見なれたピンクのバラが…。

えっ?

…これ、私の、パンティ?
…しかも、使用済み?

恥ずかしさで顔がカッとほてって、
ビニール袋を紙袋の中に突っ込むと
御礼も言わずフロントの前からダッシュ!

どうして…いつ脱いだのなの…
頭の中を駆け巡るピンクのバラガラパンティ…。

十分フロントから遠ざかって
柱の影で閉じた半透明のビニール袋をひらくと
ツーンと消毒液の匂いが…。

かわいそうなバラガラパンティ。
消毒液まみれ。
こんなみじめな状態で2週間近くもフロントに…。
いっそ、ひとおもいに捨ててくれた方が…。

その時フロントの人の複雑な顔を思い出しました。
笑顔で渡すのも…ね。気を使わせてごめんなさい…。

あまりの恥ずかしさで
結婚式のことを思い出すたびに
まずバラガラパンティを思い出してしまいます。
そういえばあれから、バラ模様のパンティは
1枚も買う気にならないのです。

これって…トラウマ、ですか?