ひより軒・恋愛茶漬け -6ページ目

コタエ

あなたが

黙っているから

静かで


わたしは

いつもどおり

静かで


髪を流す風は まだ

だいぶ冷たい。


並んで歩く

歩幅。


かすかな

コロンのにおい。


ちいさなわたしを気遣い

少し猫背になって

耳元でささやく

あなたの


わたしへの

想いをきいた。


とても静かに。


まったく

知らなかったみたいに。


喜ぶでも

謝るでもなく

無言。


答えの代わりの

初雪。


見えないけれど

どこかで

焚き火の火が爆ぜる。


音がする。







好きな作家は?と聞かれても

いつも、すぐ答えられません。


わたしが飽きっぽいから、なのかな。

気が多いからなのかも。


最近、読んで面白かったのは

伊藤 計劃さんの「ハーモニー」です。


手ぶらで

どうして

そんなに何もかも

詰め込むのだろう。


旅先の

はじめての眺め

やさしい香りのなか


荷物さえなければ


大きく腕をふって

簡単に気持ちよく

風を切れるのに。


たとえば

心も


大切な人への想いも


時々は

遠く

置き去りにして


ずっと前に

なくしてしまった

もののように

懐かしんでみたい。


新鮮な空気

生まれ直すことの快感。


持つことだけでは

満たされない

捨てられることの自由を


たしかめて

全身で

味わう。


たぶん

しぜんに大きく

微笑みながら。









小説講座で角田光代さんとお会いしました。

他の受講生の方や

文芸評論家の池上冬樹さんと

一緒にお酒を飲みました。


角田さんは

とてもチャーミングで

お酒が好きで楽しいけれど

プロということを

とても感じさせるかたでした。


もっと書きたい。



BGM

二人おそろいの

ヘッドフォンを買った。

お互いに

相手のために。


包装をはがし

リボンを解く

公園の芝生の上は

祝福の日差し


いつだって

背が違いすぎるから


向かい合って

膝まずいて

結婚式の

指輪交換みたいに


銀色の

ヘッドフォンで包む。

お互いに

相手の耳を。


ipod


ひとつだけの


優しいメロディライン


曲が始まると突然 

相手も

午後の景色も


見慣れない映画の

ワンシーンになる。


ことばは届かない。


だから

つないだ手を

離さないようにして


エンドマークのない

ハッピーエンドを贈りあおう。







週末

仙台に行きます。


寒そう。


最近 遅筆でごめんなさい。










ばかもの

たとえ

誰かを傷つけたとしても

自分くらい

自分で守れとあの人は言う。


やさしい声に混じる

いらだち。


かためたこぶしが

わたしにむく 

ずっと前から

わかっていた


逃げられる間合いの

その内側に

自分が

立っていることを。


ねえ。


わるぎって

どんなかたち?


楽しそうに

夢で話してるのは誰?


嫌な答えを避けて聞く。


自分

自分

自分くらい


あの人はそう言ったけど


守りたいのは

一番強い武器を

今 放り出そうとしている

あの人 だけだ。









絲山秋子さんの「ばかもの」を

ちょうど読んでいるときに

金子監督が今度、「ばかもの」を撮ることを知りました。


期待。


最後のほうが、結構いい感じの話なので。


ばかもの、と聞くと

わたしの中では茨木のり子さんの詩の

「自分の感受性くらい自分で守れ、ばかものよ」

という部分が

とても思い起こされるのです。


で、これを書きました。


2010

 
   ひより軒・恋愛茶漬け-2010ひより



     ことしも、よろしくお願いします。

帰省までに

あなたから

とどく手紙に

言葉はない。


思い出したように舞い込む

薄い水色の封筒には


切り取られた街の

風景写真が

何枚か入っている。


同じ季節の

知らない街の


遠くにある

あなたの視線を

たどり


並べる。


言葉に代わるものを。


思う。


そこに写っていないものを。


解読する。


伝えたかったはずの

淋しさと

乾き


あなたの甘えを。






2009年も

もうすぐ終わりです。


たくさんの方が応援してくださって

幸せです。本当に。


来年もよろしく。

よいお年を。





焼印

スーツの似合うことが

最低条件だった。


やわらかい生地の

しわのよる

暖かいひじにつかまって


あるく。


ジングルベルの街を

幸せに

うつむいて。


いつまでも

このひとの

顔を覚えないのは


いつも

うつむいて

まともに眼をあわせない

せいかもしれない。


ジングルベル。

ジングルベル。


覚えられてもいい。

覚えたくない。


うつむいて横に

ちらりと見えるのは

大きな靴の中の

こごえる素足。


あの日のように

きっと

このひとの


高く美しい甲が

わたしの脚の

内側に触れて


こころでなく

からだに

冷たい焼印を押す。


ジングルベル。

ジングルベル。


制服の奥で鈴が


あかるく

透き通る鈴が

鳴り続けても


たぶん もう

子どもじゃないから

しかたないけど


からだで感じるほどに

こころは動かないんだ。





メリークリスマス!!


先週は雪のある「かぐら」へ

スキーに行ってきました。


久しぶりの雪景色。

綺麗で清潔で気持ちよくて

楽しかったです。

たたかう姿勢

はじめて

たたかいかた

を習う。


武器はもたず

ここにいない

だれかにむかい


勝ち負けのない

こぶしをふるう。


わたしをはげます優しい声。


たんたんと


こしをいれてとか

体重をのせてとか

えぐるようにとか


そのたびに

こまかい汗が飛び

わたしはことばにならない

叫びをあげる。


きもちいい。


わたしの弱点は

攻撃に夢中になりすぎて

ガードがさがってしまうことだ。


そう。


よく

あのひとに

つけこまれたように。


新しいりずむ

音楽が変わり

呼吸は少しずつ整えられていく。


カポエラの

しなやかな脚捌き。


ムエタイの勝利の祈り。


聞く。


鼓動。


嘘と真実。


人が優しいという 嘘。

たたかいは美しいという 真実。


美しい体。






ようやく

近くのジムに通いはじめました。

格闘系の運動って面白い。


でも痩せなくては、かっこ悪いんです。



義眼

 カーテンを揺らしているのは気配だ。朝の鳥の風の。日をすかして、単純化されたレースの花と星のパターンが向かい合う二人の肌の上に影を作る。

 彼は右眼をゆっくりと取り出して私のひらいた手のひらにそっと乗せた。

ちょうど生命線と運命線の交わるあたり。くぼんで安定したその場所に置かれた小さな球体は、それ自体が熱を発しているかのように暖かかった。

「あたたかいね。」

 彼は笑う。

「雌鳥が卵を抱くみたいに大切に温めているからだよ。僕が僕のなかで。」

くすくす笑いが交わされ、私も、とこっそり思う。私もこのすべすべした球体を温めてみたい。私の体の奥の、卵のために用意された大切な場所で。

 こんな風に無造作にふれても傷はつかないのだろうか。じっとりと汗ばむ手のひらは、私の体の中で表なのか裏なのか、清潔なのか不浄なのか、一番あいまいな場所だった。

 彼の義眼に顔を近づけてじっと見る。作り物の黒目が私を静かに見返してくる。不思議だった。突然、寒気に似た快感が背骨をはいあがってきた。

「舐めても、いい?」

 彼の笑い声が響く。

「いいけど、食うなよ。」

 さっきまで欲望を集めていた舌先をとがらせ、その眼に触れる。期待通りに、ほんの少し塩辛い味がして、私はいつものように好奇心を身勝手に満たした。






たまには少しパターンを変えてみたくて、散文っぽく。


今月20日ごろ、突然スキーに行く予定をたてたのですが

もう滑れるのでしょうか。

12月にスキーに行ったことがないので不安です。



始発電車

始発電車をおりて

初冬の暗い

プラットホームに立つ。


ほてる体を

いましめる寒さが

ヒールを伝いのぼってくるから


わたしは

くるぶしまでのコートの上から

強く自分自身をかき抱く。


アサガエリ。


不眠と興奮は

お酒とあの男のせいだ。


ミットモナイ。

モウ タノシクナイ ノニ。


ふらつくカラダの

バランスを夢中でとる。


改札口の外に

いるはずのないあなたの

明るい笑顔を見つけるまでは。


蛍光灯の白いひかり。


いつものように優しい

「オカエリ」の声。


驚くわたしを

いいわけもゴメンナサイもなしで

ゆるすあなたの

美しい心の近くに


いい女ぶった

じゃまな靴を脱ぎ捨て

裸足で

いますぐ駆け寄りたい。