薄氷 | ひより軒・恋愛茶漬け

薄氷

兄のいなくなった日

庭の池に薄氷が張った。


ありきたりな景色は

白濁した膜で覆われ

美しく閉じ込められた。


けして

肌を焼かなかった兄の

白い手。


その冷たい手のひらで

両頬にそっと触れられ

瞳を覗き込まれると


誰もが

彼の言いなりになった。


たくさんの女の人と

たくさんの男の人が

兄の楽しみのために動く。


 愛が一番有効な手段だ。


それを知っていたわたしは

彼の白い手から

逃れることができたのだ。


そんなことをしたら

愛するよりも憎むと叫んで。


 憎しみのサンプルなら

 もう、他にいる。


兄の呟きが落ちた池の

薄い氷の奥を覗き込むと

彼によく似た誰かが

こちらに微笑んでいる。


何かに憑かれたような

うつろな目で。






最近

支配について考えます。


愛情を放棄しても

支配力を求める人って

なんだろうって。



11月は小説教室で

中島京子さんにお会いしました。


編集者の客観的な目と

作家の目の

両方を持っている方でした。


その二つで

自分自身の作品を見れることは

強力な武器だと思います。


きっと良いことばかりでは

ないのだと思いますが

ちょっと感動しました。