兄の彼女 | ひより軒・恋愛茶漬け

兄の彼女

きれいな人だった。


美人ではない。

姿勢、声、言葉遣い

その佇まいがきれい、と感じさせた。


「兄のどこが好きなんですか」


サーブされたばかりのパスタを取り分けながら

半分からかうような調子で聞くと、

彼女はわたしがフォークを置くのを待って

まっすぐこちらの目を覗き込んで言う。


「誠実なところ、かな」


くつろいで見える上品な笑顔。

その笑顔のままで、

彼女はしっかりとわたしの表情を読んでいる。

きっと頭の良い人なのだ。


流行のピンクの口紅に赤ワインが混ざって

彼女の唇をぬらしている。

肉のない細いあごには不釣合いなほど

ふっくらとやわらかそうな唇だった。


「まじめさ、なら、保証しますよ」

妹の保証つき。これで良いはずだ。


皿を受け取る彼女の白いブラウスの胸元が揺れる。

くっきりとした谷間は上からのぞくと見える

ぎりぎりのところまで、さらされている。


「まじめなのは、こどもの時から?」

「さあ」

「学生時代は、もてたのかな?」

「どうでしょう」

ちらっとお兄ちゃんの横顔を盗み見る。


「おい、余計なこというなよ」

お兄ちゃんの暢気なつっこみ。

「そういうところ、兄は秘密主義なんですよ」

子供っぽく拗ねた声。ああ、完璧だ。


ははは、とお兄ちゃんが声を上げて笑う。

わたしと彼女も声を重ねて笑った。

ざわついたイタリアンレストランでは、

多少大きな声をあげても誰も振り向いたりしない。


窓の外は夏。

浮ついた季節。


お兄ちゃんの恋人が魅力的な人でよかった。

わかりやすい性的な魅力のある人で。


カンツォーネ。

明るさが作る日陰の暗さ。


子供の頃のお兄ちゃんを、わたしは知らない。


舌先にからむ濃厚な味を

掬い取る。


ただ

教えこまれた一番不道徳なやり方で。






写真展に来てくださった方々

ありがとうございます。


すごく遠くの方とか感激しました。


今週、土日までです。


会場にいたり

隣のレストランにいたりしますので

お気軽に声をかけてくださいね。


いないときは

メッセージだけでも残してください。