山桜心中 | ひより軒・恋愛茶漬け

山桜心中


ひより軒・恋愛茶漬け-yamazakura2010



あの山桜の下で

わたしを

オトコが待っている。


オトコは裸足だ。


脱ぎそろえた靴の

磨かれた革の上に

柔らかな花びらが

そっと触れては落ちている。


約束まで

あと3時間


オトコの手に

銀の携帯電話


いや、それまで、

ここで君を待つ

もう着いたから

花びらを浴びて

ここで君を

だから、ゆっくり来なさい


オトコの声は

傷ついて枯れている。


土が

わたしの代わりに

オトコの足を

柔らかく包む。


わたしは少しも

優しくしない。


適切な優しさは

わたし自身の

過去の傷を露呈する


そんなふうに考えるオトコに

少し

うんざりしているからだ。


心中でも

するつもりかもしれない。


それなら

それもいい。


古い捻じ曲がった

桜の枝を見上げて

ふたり

横たわる。


最後だから

汚れて

心中だから

離れないように

絡まり合って


結局は

思いとどまる。


あらためて

絶望できないほどの

ものの美しさを


外でなく

お互いの内に

発見して。





今年は上野、浅草、お台場、白金、王子に

桜を見に行きました。


家の近くでは

まだ美しく桜の咲いているところがあります。