「 T の告白 ② 」 | ひより軒・恋愛茶漬け

「 T の告白 ② 」

「 T の告白 ② 」

川沿いの遊歩道・隅田川テラスへ降りていくと
ようやく空がオレンジ色に染まりはじめたところでした。
目の前を東京湾へと向かう水上バスが
ゆっくりと通り過ぎていきます。
昨日降ったばかりの雨が
川の水を増水させているのでしょう。
水上バスが起こした波が
テラスを取りかこむ鉄柵に
大きな水しぶきをかけていきました。

「カノジョは何時ごろに来るの?」
「さあ。」
「さあって…もう!絶対来るんでしょ?」
「…ダメ。緊張してる。何も考えられない。」
見ると顔が蒼白!
それでも鞄から出したカメラを首から下げると
写真部の部長らしく見えなくもありません。
「大丈夫。きっとうまくいくよ。
私がついてるし。」なんて
自分だってドキドキなのに
調子の良い私。

近くなのに隅田川テラスに来るのは久しぶりでした。
ジョギングする人。
犬の散歩に来る人。
ベンチで本を読む人。
そして T のように対岸の夕日を撮りに来る人。
きらきら光る水面と色を変えていく空を背景に、
ゆっくりと時間が流れていきます。

大きな使命があったはずなのに
カノジョが通りがかるのを待つ間、
水際で川を覗き込んでみたり
人なつこい犬とじゃれあってみたり
緊張を少しでもほぐしてあげようと
こわばった T の顔にカメラを向けたりしていました。

「来た。」
T の視線を追うとすぐにカノジョがわかりました。
長い髪を風になびかせ、
小柄で小顔で色白で華奢。
顔のつくりは派手ではなく、
ソックスをきっちり3つ折りにして
まじめそうな雰囲気です。
T と並べばお似合いの知的なカップルの出来上がり。

恥ずかしがっていては
逆に怪しまれると思ったのでしょう。
T はサッとカノジョのほうへ歩み寄っていきました。
「すみません。僕たち○○高校の写真部なんですが、
今いろいろな高校生のスナップを集めて
高校生による高校生の写真集を作る企画を考えているんです。
良かったら写真を撮らせてもらえませんか?」

すごい。T はこの科白をどのくらい練習したのでしょう。
完璧です。
成功間違いない…と思ったそのとき
「なんで。」
とカノジョの不機嫌な返事が返ってきました。
「えっと…それは…。
誰でもいいわけじゃなくて…、
あなたが…その…。」
焦る T の顔は西の空より真っ赤で、
思いっきり告白しているようなもの。

何とか助けなくては。
あわてて私も声をかけました。
「急にこんなお願いして失礼かもしれないけど、
彼も私もあなたがステキだと思ったからなんだ。
こう地味さの中の控えめな魅力っていうか…」
ほめてるよね、これ?

「私、自分の顔嫌いだし、
毎日待ち伏せされるのはもっと嫌い。」
ああ、ばれてる。
「それは彼が部員として
被写体をさがしていたからだよ。」
「写真を撮られるのも嫌いなの。
もうココに来ないで。」
ココはあなたの所有地じゃないでしょ!
と言いたかったけど、
T の気持を考えてぐっと飲み込みました。
地味なんて言ってゴメンネ。
カノジョは気持ち良いほど
キッパリサッパリとした女の子でした。

颯爽と去っていくカノジョの後姿を
これが最後と見送って
(だって、ココに来ないで、だもんね)
T はと見ると、いきなり背を向けてダッシュ!
もしかしたら泣いていたのかもしれません。
              -つづくー


ごめんなさい。②でも終わりませんでした。
明日③で最終回です。

嬉しいことに、読者1!ありがとうございます。
それにたくさんの方に訪問していただいて、
嬉しさのあまり得意の後方伸身2回宙返り!気持だけ!